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創り手たちのStory

Home > 創り手たちのStory #041 株式会社 二葉

#041 株式会社 二葉2015/10/23

産地とつくり手の顔が見える取り組みで新たなファンを増やし続ける〈江戸更紗〉

都会の真ん中に息づく、伝統的な染物産地

まちなかにひっそりと流れる川に鯉のぼりのように反物がはためき、商店街では色鮮やかな染物の暖簾が軒先を賑わせて、道行く人の目を楽しませてくれる──。

2009年にスタートした「染の小道」は、3日間で1万2000人以上を地域に呼び込む地域の名物イベントに成長しました 写真提供:「染の小道」実行委員会

これは、とある染物産地の光景。いったい、どこの産地だと思いますか?
じつは、目をあげればすぐそこに摩天楼のビル群が立ち並ぶ、新宿区落合。知る人ぞ知る染物産地のこのまちで、7年前から毎年開催されている染色の祭典「染の小道」の光景なのです。

この「染の小道」を発案し、実行委員長を務めるのが、江戸更紗と東京染小紋の伝統を受け継ぐ〈染の里 二葉苑〉の4代目当主、小林元文さんです。

同社の創業は大正9年。創業者のひとりである祖父・小林繁雄氏は長野県に生まれ、山間で染色を学んだ後、一念発起して上京。当時、東京で第一人者であった江戸小紋師の小宮康介氏に弟子入りし、江戸染色工芸の伝統を継承しました。

江戸時代は、染色の技法が飛躍的に発展した時代。とくに伊勢型紙などの型紙を用いて細やかな絵柄を大量生産できる型染めの技法が広まり、町人たちも気軽におしゃれを楽しめるようになっていました。

「そうした風潮を嫌った江戸幕府は、贅沢を禁じる法令を出して衣装の色を厳しく制限しましたが、江戸の職人たちはたくましく、禁じられなかった茶色と鼠色を駆使して、唐茶、柳煤竹、藍鼠といった粋な色柄を生み出しました。遠くから見ると無地だけれども近くに寄ってみると繊細な文様が描かれている『江戸小紋』、中近東にルーツをもち、茶色の中にエキゾチックなデザインが施されている『江戸更紗』は、染職人たちの心意気といえるものでしょう」と小林社長。

自ら同業者や地域の商店街に働きかけ、「江戸染色工房・再生プロジェクト」に取り組む小林元文代表取締役社長

古くから、藍染の職人や染物商が集まる町は「紺屋町」と呼ばれ、神田にあった江戸の紺屋町は、広重や北斎などの浮世絵にも描かれています。しかし、明治・大正の時代になると、神田の染色職人たちは新宿の落合・中井あたりに居を移しはじめました。

「染色で欠かせない工程に染めた布の水洗がありますが、次第に生活排水で川が汚れるようになり、染の職人たちはよりきれいな水を求めて上流へと移り住んだのです。落合は、神田川と妙正寺川が落ち合う場所というのが地名の由来。当時の川辺は整備が整っておらず、水害を嫌ってあまり人が住まない土地でしたが、それが染職人たちにとってはもってこいの環境だったのです」

染の職人たちとともに、蒸気で布のしわを伸ばす「湯のし屋」などの職人たちも移り住み、落合には江戸染色の産地が形成されていきました。最盛期には300軒を超える染色業者で栄え、染職人たちが川で反物を水洗いするという風物詩が昭和30年代半ばまで続きました。

かつては、同社の前を流れる妙正寺川で職人たちが反物を水洗していた

「観光」と「モノづくり」をリンクさせて伝統を守りたい!

ところが急速に着物は日常着でなくなり、日本人の服装は洋装へと切り替わっていきます。小林社長は子どもの頃、「どうしてうちの仕事が成り立ってるんだろう?」と疑問だったといいます。

「祖母は生涯着物で過ごした人でしたが、まちなかには着物を着ている人の姿がないわけですからね。クラスには同業の家の友人たちがいたので特別な仕事という意識はありませんでしたが、中学生の頃には、うちの家業はいつまで続けられるものかなと懸念していました」

こうした思いから小林少年は無性に日本を離れたくなり、世界へと飛び出します。突然、英国の高校に留学したいと言い出した息子を、3代目当主であった父は黙って後押ししてくれました。3代目は、伝統を守りつつ斬新な現代感覚を取り入れ、数々の賞を受賞していた染色作家。しかし、経営者としては時代の変化に翻弄され、つねに困難と闘っていました。息子が広い世界から染色の未来につながるなにかを見つけてくることを願っていたのかもしれません。

卒業後、堪能な語学力を生かして旅行代理店に勤めた小林社長は、海外添乗員としてトルコ・インド方面を任されます。

「更紗を目にして育ってきましたから、やはり現地の更紗が気になるわけです。おのずと見学先に更紗工場を組み込むようになり、説明にも熱が入る。なぜだかやけに染物に詳しいガイドとして旅行客に喜ばれました」

「僕は日本人らしくないような顔立ちだから(インド方面のガイドにまわされた)」と小林社長はおどけますが、どこか運命を感じる話です。遠く離れたインドと東京の自宅で同じ模様を染めている不思議さ。そして小林社長は、案内するこれらの国々の産地が、上手に「観光」と「モノづくり」を共存させていることに強く感銘を受けます。

「トルコの絨毯やインド更紗は、紀元前から聖地巡礼などの土産品として求められることで世界各地に知名度が広がり、伝統の技術や美しさが認められて産地が栄えてきました。江戸更紗も、観光とうまくリンクさせることで活路が見出せないかと考えたのです」

こうして小林社長が家業を継ぐ決心をしたのが24歳のとき。そこから、伝統を守り抜くためのさまざまな挑戦がはじまりました。

現場のモノづくりを見せて、良さを伝える

まず難関だったのは、東京の産地であるという立地面からの商慣習です。

「ファッションはやはり都会でもっとも販売され、消費されます。あまりに消費者と近すぎる産地のため、割安になりがちな直販は避け、あくまで下請けとしてこっそり生産することで販売店の利益を守り、販路を確保していました」

小林社長は生産者として、着物専門店や百貨店との良い関係を保つことを重視しています。最終的にお客様にご満足いただくには、やはり細かな接客によるフォローやアドバイスが欠かせないからです。

「しかし、いまは現場のモノづくりを見せて、良さを伝える時代。そうすることが結果的に江戸更紗や江戸小紋のファンを増やし、販売店の利益にもつながります」

同社は積極的に公的な支援策を活用し、産地のPRや開かれた工房づくりに着手。7年前には、中小繊維製造事業者自立事業(現在は終了)の助成金を活用し、自社工房を、ギャラリーとショップを併設したガラス張りの空間に建て替えました。

そして奥様の小林慶子さんを中心に「更紗型染め体験」「二葉苑を楽しむきものツアー」などの楽しいイベントを企画し、着物好きな人たちが気軽に産地に足を運んでもらえるような工夫をしたのです。

 

工房併設のギャラリー&ショップには、華やかな染めを贅沢に使った和小物や雑貨、帯留やはぎれなどが並びます

現在、二葉苑の染職人さんは6名。開かれた工房にしたことで若い世代が入社し、江戸染色工芸の伝統を継承しています

「最初、職人たちは動揺していました。そもそも地道にコツコツ打ち込む仕事ですし、俺たちはパンダじゃねぇ! と(笑)。でも、しばらくしたら、うちで一番のベテランだった職人が、こうなって良かったと言ってくれたのです。誰でも工房が見られるようになり、うちで染めた反物でつくった着物を着たお客様が遊びに来てくれる。何十年もこの仕事をしていた人が、『自分が染めたものを着た人を初めて見た』と感激しているんですね。それほどまでに染めの仕事は消費者から遠く、需要も減っていた……」

小林社長は、そのときの職人さんの表情を思い出したのか、すこし微笑んで続けました。

「誰のためにつくっているのかわからないのでは、やりがいもないし、技術も磨かれません。数年前から和のブームが起き、いっとき着物業界も活気が出ましたが、売れるとなると海外製の安価な“和風のもの”が大量に入ってきて、手間ひまかけた伝統の技はまた窮地に立たされてしまいました。それでも、こうして産地や職人の姿を見てもらうことで、愛着を持って伝統の和物を選んでくださる方が増えるのではないかと期待しています」

他業種とのコラボで、伝統の和柄を暮らしの中に

また、着物の「素材」をつくるメーカーであることを生かそうと、20年以上前からテーブルマットやネクタイ、ランプシェードといった現代のライフスタイルにマッチする商品開発を行い、ギフトショーなどの展示会に出展しています。こちらも当初はなかなか周囲の理解が得られない取り組みでした。

「職人にしてみれば、せっかく苦労して長い反物を染めたのに、なぜカットしてしまうんだとネガティブになってしまうわけです。市場にそうした商品もなく、バイヤーさんたちにも見向きもされませんでした。でも続けるうちに他ジャンルの出展者さんたちとの出会いがあり、意気投合してコラボレーションするうちに商品数が増えて、良さを感じてくださる方も増えていったのです」

 

「東京染小紋」や「江戸更紗」を染色加工した生地を縫製したクッション。ニーズに合わせた配色で染めることもできます

 

普段使いのお財布にも、小物入れにもなるがま口財布。「東京染小紋」や「江戸更紗」の文様が鞄の中を華やかにしてくれます

Rin crossingでは、江戸小紋や江戸更紗の布を用いた〈クッション〉を登録しています。サイズがちょうど、帯のお太鼓(背中の部分)と同じになるため、上品な着物姿を連想させる魅力的な商品。パリの見本市など海外での展示会でも、モダンな同社の製品は注目を集めています。

「創業以来つくり続けてきた柄や図案は数え切れないほどあり、色の組み合わせも無限です。昔からデザインは工房内で行ってきましたが、現在、東京都の事業でデザイナーさんと器をつくるコラボが進行しています。Rin crossingでも、新たな取り組みに繋がるさまざまな出会いを期待しています」

今秋は、落合〜高田馬場〜早稲田に点在する染色10業種20工房を巡るイベント「お江戸新宿 紺屋めぐり」を開催。率先して染色体験などで工房に参加者を招き入れ、伝統技法を肌で感じてもらいました 写真提供:株式会社 二葉

株式会社 二葉
(カブシキガイシャ フタバ)

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