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創り手たちのStory

Home > 創り手たちのStory #044 株式会社 黒香師工房

#044 株式会社 黒香師工房2016/01/25

京職人の技術と伝統を新たな感性で提案する〈京友禅〉

伝統の職人技を活かした “KIMONO ルネッサンス"

京都市上京区。京都御所からほど近い染物織物の街で、最高級のシルク生地に新たな息吹を吹き込み、かつての着物業界にはなかった新しい価値を生み出している工房があります。伝統の職人技と現代のセンスを融合した“KIMONO ルネッサンス"を提案する、株式会社黒香師工房です。

「着物スタイリストの経験をもとに、京都の職人の最高の技術と現代の新しいアイデアを融合した、いままでにない商品をご提案します」と冨田社長

代表取締役社長の冨田晴美さんは、西陣織の織手であった母を持ち、幼い頃から最高級の京織物を目にしてきました。そして京都室町の着物問屋に就職し、ご主人である冨田伸明氏に出会います。冨田氏の祖父は手描きの友禅職人。伝統を深く理解しながらも、現代的かつ独自のセンスで着物の良さを伝える冨田氏は、27歳で独立後、日本初の“キモノスタイリスト”として頭角を顕し、2000本を超えるテレビや映画、雑誌、舞台等のスタイリングを担当。世界各地で「着物デモンストレーション講義」を行うなど、世界に日本文化を伝えてきました。

冨田伸明さん

「私たちは幼い頃から本物のシルクの良さや、織の良さを感じながら育ってきました。しかし、良さを知れば知るほど、なぜこれが着物だけで終わってるのかなという疑問が、ずっと私の中にあったのです」と晴美社長。

なぜ、この生地を洋服やバッグに使えないのか。もっと素材としての良さを活かしたい。海外に着物を紹介する機会が増えるにつれ、その思いはどんどん大きくなっていきました。

とうとう「では、自分たちがやろう」と決意したのが2004年。伝統の織物を使って、既成概念にとらわれない和装、オートクチュール、小物・雑貨を創り出す黒香師工房の誕生でした。

「着物の生地をもっと他業種のブランドやバイヤーさんに見ていただき、さまざまなジャンルで商品化することで、伝統の織物や日本ならではの繊細な技術を活かす場が増えます。そして世界に注目される商品をつくることで若い人たちを呼び込み、技術を継承していかねばという危機感がありました」

「本物」にこだわり、大胆な発想で世界へ

黒香師工房では、伝統技法の「織」「染」にこだわり、オリジナルの白生地に板場友禅の技法を用いたオリジナルの色柄で生地を製作しています。

オーダーメイドの着物生地はもちろん、着物以外の用途に使われる正絹生地のオーダーメイドに対応しており、企画・提案・プランニング・デザイン・製作まで一貫して行えるのが強みです。

 

冨田伸明氏によるオリジナルデザイン生地を蝶ネクタイにしました。裏をピンにすることで髪飾りやコサージュとしても使えます。パーティーなどに

 

最初につくった商品は、着物に合わせるあおり型のバッグ。定番の型にはない帯締めの持ち手や、ジーンズファッションにも合わせられそうなモダンな色柄デザインで着物業界に衝撃を与えました

しかし、新業態であるだけに、苦しい戦いも多々ありました。まず、シルク(正絹)であるがゆえの高価格です。

「いま、市場にはポリエステル生地にインクジェットで和柄を印刷した和風商品がたくさんあります。でも舞台に立つ方は必ず本物の生地、つまりシルクに型紙を何層にも重ねて染めた伝統技法の生地にこだわります。それは手仕事による手間が深い色や微妙な立体感を生み出し、ライトの下で鮮やかに映えるからです。やはり本物でないと存在感が薄っぺらくなるとおっしゃいます」

ところが、一般の方にはこの差がなかなか見分けられないのが実情。こればかりは良いものを見て、目を養っていただくしかありません。

「だからこそ、私たちは本物にこだわります。気軽に本物を味わっていただくために、より日常的な商品や手頃な価格の小物を提案したいのです」

しかし、伝統と文化を重んじる京都で、こうした発想はなかなか受け入れられませんでした。まず職人さんたちは、生地を壊すのを嫌がります。ここは肩、ここは袖と着物のために染めた反物を、なぜ切り刻むのかというわけです。海外の方にアピールするような色彩の組み合わせも、「とんでもない!」となかなか染めてもらえませんでした。専門店と職人を取り次ぐ悉皆屋(しっかいや)さんや同業の専門店も「しょうもないことせんといてください」と渋い顔です。

「それでも私たちは世界に着物の良さを伝えなければ伝統が途絶えてしまうと必死でした。悉皆屋さんを介さず職人さん本人を訪ねてアピールし、私たちの考えをわかってくださってひと肌脱いでやろうという職人さんたちに出会えたからいまがあります。なにしろ、いろんな無理を言いますので……」

加藤秀夫さん

 

板場友禅は職人の手で何枚もの型を合わせ、柄を表現していく技法。熟練の職人技から生まれる絶妙な色の配合で、黒香師オリジナルデザインが生み出されます

 

3枚の型紙を用いて絞りのような鹿の子文様を刷り表わす「摺り匹田(すりびった)」という技法。鹿毛の刷毛で刷りを重ねるごとに陰影がつき、立体感が醸し出されてきます

加藤染工の加藤秀夫さんは、晴美社長が大きな信頼を寄せる職人さんのひとり。最初はやはり黒香師の要望に驚いたと言います。

「黒香師さんは世界を見てるから発想が違うよね。でも、変わったことをちゃんとやろうとしてるんだよ。手の味を伝えていきたいという思いがあるし、そのためにこういう商品をつくるから切らせてほしいとはっきりしてる。配色も染めてるときはどうだかなあと思うんだが、(商品が)出来てくると、なるほど面白い。いまは、次はどんなことを言ってくるんだろうと楽しみにしているよ」

そう言って豪快に笑った加藤さん。地道な工程を何度も繰り返し、黙々と生地に向き合うその姿を見つめながら、晴美社長がポツリと呟きました。

「本物を失くしてはいけないと思うんです。そのために生地をつぶす人も必要。小物から入って本物を知り、そのうち着物を着たくなる人たちが増えれば……」

新ブランド〈aturae〉で若い世代にアピール

そんなご両親の姿を見て、昨年春、アパレル販売店に勤めていた娘の冨田真由さんが黒香師に入社。新ブランドを立ち上げました。こだわりの着物生地を使ったモダンなハンドメイド和雑貨を提案する〈aturae(アツラエ)〉です。

幼い頃から家じゅうに溢れていた着物を見過ぎたために、その色鮮やかさに辟易していたという冨田真由さん。「洋服の仕事を経験して、あらためて着物の良さに気づきました。両方の良さを取り入れ、活かしていきたいですね」

 

〈こだわりゴム 藤娘PURPLE〉。京野菜の柄が隠された白生地を板場京友禅の技法で染め上げました。ハンドメイドなので、ひとつひとつデザインが異なります

 

〈メガネポーチ〉身近なものにこだわりの生地を。生地もかたちもオリジナルのめがねポーチです

「販売で感じたのは、いまのお客様は商品に独自のストーリーや、特別なものを手に入れたという高揚感を求めているということでした。両親がつくっているオリジナルの生地の価値に気づき、自分の感性で同世代の人たちに伝統の良さを伝えたいと思ったのです」と真由さん。

ブランド名には、あなたのための「おあつらえ」という意味と、自分自身や誰かのためにあつらえる気持ちで選んでほしいという願いが込められています。

「私は、着物の生地であるということが後づけになればいいなと思っています。いいなと手にとってもらって、これは着物の生地なんだと気づき、さらに価値を感じていただけたらいいなと。販売に際して量産できないことや同じ柄がつくれないことを敬遠される場合があるのですが、私は逆にそれが魅力だと思っています。一点ずつ違う柄の中からお客様が気に入るものを選ぶほうが、いまの時代に合っていると思うのです」

自分たちのものづくりをわかってくれるお客様、そしてバイヤーさんとの出会いを求めて、昨年から展示会や百貨店催事への出店にも挑戦しています。

「百貨店の催事では、呉服売場の方が急に若いお客さんが増えたと驚いていました。着物や帯締は使わないし高いからという方も、アクセサリーやヘアゴムなら欲しいと見に来てくださるんです」と、うれしそうなおふたり。

 

舞妓さんのだらりの帯の柄や歌舞伎の柄をアレンジしたタブレットケース

 

着物のように着せるとワインボトルケースになりました

裾野を広げる一方で、小物類では使う生地の量が少ないため、もっとたくさん使っていただける企業やショップに生地を提供し、新たな商品づくりに活用してもらうことが、一番広がりがある方法だと考えています。

「たとえば海外にアピールするノベルティ商品などに私たちの生地を使っていただけたら、日本製の素材の良さや繊細な技術が伝わりやすいのではないかなと思います。他業種の方とのコラボレーションで、既成概念を超えたアイデアを実現したい。Rin crossingで、そうした出会いがあるとうれしいですね」

株式会社 黒香師工房
(カブシキガイシャ クロカシコウボウ)

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