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創り手たちのStory

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#045 有限会社 シーブレーン2016/02/25

伝統と手づくりのやさしさをさりげなく伝える〈ハンドメイド時計〉

ひとつひとつ、手で時計をつくる金沢のアトリエ

ひとつひとつ つくる
機械工業の得意な この国で
ひとの手は 憶えている
ひとがつくる 美しさは
ひとの手だけが つくれる

アトリエを紹介するパンフレットを開くと、そんな詩がひっそりと記されていました。そして、ノスタルジックな時の流れを感じさせる時計工房の写真。有限会社シーブレーンは、石川県金沢市でハンドメイドの時計を企画・製作する会社。日本画に用いる岩絵具や漆、金箔といった伝統的な技術を取り入れ、日本の美意識を表現した腕時計〈はなもっこ〉シリーズが好評を博しています。

〈はなもっこ〉紋切と箔のシリーズ

代表取締役社長の井波人哉さんが、父の会社を継いだのは1980年。もともとは中学校で使われる技術家庭科の実習用教材の製作販売を行っていました。

「当時はやむを得ず引き継いだ面もありましたが、自分が企画した教材を子どもたちが喜んでつくってくれるのが非常に楽しかったんですね。モノづくりを通して喜んでもらえる事業がしたいと思っていたときにハンドメイドウオッチをつくる方と知り合い、1994年に時計製作の事業を立ち上げました」

「とくに東日本大震災の後、手づくりのものや、日本の伝統を大切にしたいという気持ちになられた方が本当に多いと感じます。心のおくにある大切なことを思い出されたというかなんというか」と井波社長

そのときから20年以上にわたり、いまもつくり続けているのが、定番の〈Kelutuan(クルチュアン)〉シリーズです。文字盤、ケース(文字盤の枠の部分)、針のせ、組み込み作業までひとつひとつ手作業でつくられるこだわりの腕時計で、さらにその日の気分でベルトを付け替えてアレンジを楽しむことができるというアイデアが、多くの女性たちの心をつかみました。

 

シーブレーンの原点といえる〈Kelutuan〉シリーズ。本体のケースもひとつひとつ手作業で製作しています

「ハンドメイドというと、一般に趣味性の高いものです。しかし自分の思いは、ハンドメイドに興味のない人にも手づくり感のやさしさやあたたかさを伝えたいというものでした。そこで最初に置いてもらったのは東京・青山のインテリアショップ〈SEMPRE〉さん。洗練された雑貨のひとつとしてお客様に手にとってもらいたかったので、非常にしっくりきました」

その後、販路は小さな雑貨店を中心に全国160店舗にまで広がります。すべて買い取りでの納品でしたが月産400本がまたたく間に売れてしまい、生産が追いつかないほど。うれしい悲鳴でしたが、職人さんたちには疲れも見えはじめていました。

「身近に感じる日本の美」をテーマに新展開

転機が訪れたのは2005年、サザビーグループ〈アフタヌーンティー〉の25周年記念品の受注を受けたことです。その際、同社の品質基準をクリアするため、「生活防水」を求められました。当時、シーブレーンの時計は生活防水を実現できていなかったのです。

「生活防水を可能にするには、文字盤とベルト以外のパーツは専門の時計メーカーに発注しなければなりません。迷いましたが、完全ハンドメイドで生産量を増やすことに限界を感じていたこともあり、これを好機ととらえて生活防水のハンドメイド時計にシフトしました」

ベルトの革も、着けたときに痛くないように、ひとつひとつ手で削りながら仕上げています

これが話題となり、一時はさらに売上げを伸ばします。ところが、その後ピタッと売れ行きが止まってしまいまい、わずか1年で売上げは半減してしまいました。

「なぜだ…!」ーー納品先にヒアリングしてまわった井波社長は愕然としました。小さな雑貨店のお客様である若い女性たちは、元の素朴なハンドメイド感を好んでいたのです。それまで1万2500円だった時計が、生活防水機能をつけることで1万7500円になったことも客離れを起こした原因でした。

ここで慌てて元に戻すこともできましたが、井波社長の決断は違っていました。

「長く時計を愛用していただくために、生活防水はあったほうがいい。雑貨店がダメなら百貨店がある!」
では、百貨店で売るにはどうしたらいいか。文字盤とベルトという限られた手づくりの部分で差別化し、より多くのお客様に愛着を持って日々ご愛用していただくには……。

そして打ち出したコンセプトが、「身近に感じる日本の美」でした。

「僕らの年代になると、日本の文化を意識しているというのはかっこいいなと思うんですよ。でも、漆っていいなと思っても、なかなか日常では使えず仕舞い込んでしまったりする。僕自身そうですから、ロレックスなどのブランド時計もいいけれど、手元にさりげなく日本の伝統を感じられる時計をして、そこから『輪島塗っていうのはね…』なんて語れるといいんじゃないかなと思ったのです」

日本の伝統技法を職人技で文字盤にのせる

こうして生まれた〈はなもっこ〉シリーズは、文字盤に金沢の金箔や輪島の漆、天然の鉱物を砕いた岩絵具といった伝統的な素材を用いて日本の美を表現しています

 

〈こないろシリーズ〉人気色の群青。時間の指標に純金箔を使用。アズライト(藍銅鉱)という青色の石を砕いて作った岩絵具を使用しています。国宝の源氏物語絵巻などにも多用されている、岩絵具を代表する色です

 

〈箔押しシリーズ〉珊瑚に箔押し。岩絵具の上に金と銀の箔を貼り重ねています

「もっともむずかしいのは、文字盤の厚み。文字盤に均一の厚みで加飾しなくてはならず、しかもその厚みはわずか0.15mmなんです」と井波社長。

最初に考案したのは、漆塗りの文字盤〈うるし〉。社長自ら輪島塗の漆職人組合を訪ねて職人さんを探しました。

「漆は塗れないだろうなあと思いながら相談したのですが、熟練の職人さんは蒔絵を施しても0.1ミリ以下で塗ることができる世界なんですね。つやのある呂色仕上げの美しさにも、非常に感動しました」

岩絵具の色彩を生かしたシリーズ〈こないろ〉〈かさね〉は、日本画家としても活動する同社社員の牛島 孝さんの手によるもの。ニカワで溶いた岩絵具を和紙に幾重にも塗り重ねて製作しますが、厚みを0.15ミリ以下に抑えるために和紙を探し回り、世界一薄いと言われる高知県の「土佐典具帳紙」を使用。それも一番薄いものでは岩絵具の層が安定しないため、繰り返しの塗りに耐えることができる和紙を選び抜いています。

膠と岩絵具

 

岩絵具は膠と混ぜ合わせて手漉きの和紙に塗り重ねます。塗っては乾かす作業を4回ほど繰り返し、均一な厚さに仕上げます。むらがあると時計の針がひっかかってしまい動作不良の原因となるため、美大出身のスタッフが細心の注意を払って塗り上げます(photo:L.A.Tomari)

 

岩絵具の原料となる鉱物・アズロマラカイト(photo:L.A.Tomari)

現在、シンプルな一色塗りの〈こないろ〉には16種類の文字盤がありますが、青系だけでも「紺」「瑠璃」「群青」「群緑」「甕覗」「浅葱」と5種類あり、それぞれの微妙な色合いに思わず時間を忘れて見とれてしまいます。

「現代では、天然の鉱物を主な絵具として使用しているのは日本画だけなのだそうです。そうしたことを牛島さんに教わり、それも非常に感動したんですね。知られていないことが多いけれど、日本には素晴らしい文化と伝統があります。この美しさを多くの人に伝えたい。僕が感動したんだからみんなも感動するだろうという思いがあります」と井波社長。

海外で好反応な「シンプルでさりげない」伝統の美

〈はなもっこ〉をなんとか百貨店で展開したいと考えていた井波社長は、毎年池袋で開催される展示会〈FOR STOCKISTS EXHIBITION〉に出店した際、伝手をたどって日本橋三越のバイヤーに声をかけます。すると非常に高い評価を受け、その人がちょうど北陸の伝統工芸に関わる仕事をしていたことから、石川県のデザインセンターや自治体にシーブレーンの存在が知られることとなりました。

「僕たちは役所との繋がりなんて考えたこともなかったので、向こうから電話をいただき驚きました。石川県に伝統工芸に対する助成金があることを教えていただいたり、デザインセンターからギフトショーに出品しませんかと声かけをいただいたり、Rin crossingもそうした経緯で知って、多くの方にお力添えをいただきながら、百貨店催事を中心にすこしずつ販路を広げていきました」

〈はなもっこ〉は、平成21年度金沢ブランド優秀新製品大賞受賞、石川ブランド優秀認定商品銅賞受賞、第36回石川県デザイン展石川県プロダクトデザイン協会会長賞受賞と立て続けに映えある賞を受賞。文字盤のデザインもさらに多彩なバリエーションを生み出し、現在は月産700本でも追いつかないほどの受注に追われています。

文字盤に蒔絵を施しているのは、加賀蒔絵師の大下香仙工房。図案は主に平安〜鎌倉時代の蒔絵の名品を元にしています

それでも国内では良さが伝わって売れ始めるのに2年ほど歳月を要しましたが、海外からは即座に高い評価を得ました。昨年9月に初出展したパリの展示会〈メゾン・エ・オブジェ〉ではドイツ、モロッコ、ベルギー、フランスの企業から取引の希望があり、Rin crossingで出展した〈roomsLINK TAIPEI〉を機に台湾〈誠品書店〉での常設販売も実現しています。

2015年9月に参加したパリの展示会〈メゾン・エ・オブジェ〉では、時計とともに、文字盤に使われた岩絵具と原料となる鉱物をあわせて展示。直感的に商品の価値を伝えるディスプレイは多くのバイヤーの興味をひきました

国内の百貨店催事でも、海外から来た若い女性観光客が喜んで何本もまとめ買いしていく姿が目立っています。

「日本の伝統工芸といっても、さりげないのがいいのかもしれません。僕はうちの社員に『あまり懲りすぎてはいかんぞ』と話しているんです。技術はあるし、どれだけでも加飾はできるわけです。でも、けっしてそれが表立って見えるほどつくりすぎてはいけない。主役は時計ではなく、つける人だから。その人の雰囲気によって見え方が変わるようにシンプルにさりげなく、それが大切なところです」

コラボレーションで実現した斬新な魅力

「この世の中にないものをつくりたい」

そう言って微笑む井波社長の手首には、黒いタートルとジャケットのファッションをさらにおしゃれに輝かせる漆黒のフェイスに板状のシルバーの腕時計がはめられていました。

富山県の鋳物メーカー(株)能作とコラボレーションした話題の新シリーズ〈合-awase〉です。

 

能作とのコラボレーションは、ISICOの活性化ファンド補助事業を活用して開発に取り組んでいます。〈合-awase〉は、平成27年金沢かがやきブランド生活関連産業部門大賞受賞、平成27年石川県デザイン協議会会長賞受賞

シーブレーンの文字盤に、能作が鋳造した錫(すず)と銀の合金ベルトを組み合わせた商品で、板状のベルトは手で曲げられるほど柔らかく、リング状に丸めてバングルのように腕にはめます。

開発のきっかけは、ある展示会で能作さんの錫製の箸置きを購入したこと。そのときは人の手で曲げられる特性に驚いただけだったそうですが、使っているうちにふと「これは時計のベルトにできるのでは?」と思いつきました。

「かねてから汗や水に強い金属製ベルトの採用や、女性のお客様中心のシーブレーンにメンズラインをつくることを模索していましたが、挑戦するなら平凡ではないものがいいなと思っていました。これなら、と思ったのです」

さっそく能作克治社長の講演会を聞きに行き、経営者としても共感した井波社長は、その日のうちに協力を打診し、連携が実現しました。

「能作さんも、面白そうだからやってみようかという前向きな姿勢の企業です。しかし、完成には3年を要しました。錫100%で作ると柔らかすぎて、腕を振った拍子に外れてしまうのです。そこで0.1%単位で銀を混ぜながら柔らかさを調節。試作を繰り返し、最適な比率にたどりつきました」

石川だけにこだわらず、全国各地の技術を取り入れて商品をつくりたいという井波社長。Rin crossingでも、有意義な出会いに期待しています。

有限会社 シーブレーン
(ユウゲンガイシャ シーブレーン)

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