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創り手たちのStory

Home > 創り手たちのStory #046 有限会社 藍色工房

#046 有限会社 藍色工房2016/03/25

「藍の力」を再発見し、新たなマーケットを創造 産地を守り、伝統をつなぐ〈手づくり石けん〉

藍農家の娘が気づいた新たな「藍」の可能性

家族のためにつくられた「藍」の石けん。〈藍色工房〉の石けんは、そんな「愛」に溢れた石けんです。

ピアニストとして活躍していた坂東未来さんが、石けんづくりに取り組んだのは、愛する旦那さまの肌荒れをなんとか和らげてあげたい一心からでした。30代の頃、坂東さんの夫・純一さんは、仕事で米国アリゾナ州に滞在した際にひどい日焼けを負ったことから、極度の肌荒れに苦しんでいたのです。

「毎日、皮膚がポロポロ剥けて、その痛みとかゆみをこらえようと両手でバンバンと顔をはたいているのがかわいそうで……。治療を受けて2年経っても回復の兆しがなく困っていたのですが、ある時、知人からもらった天然ハーブの手づくり石けんを使ってみたら、あれっ? と思うほど調子が良かったんです」

さっそく未来さんは石けんづくりを学び、世界中のあらゆるハーブを取り寄せて、夫に合う石けんをつくろうと試行錯誤を続けました。でも、なかなか「これだ!」と思えない。どれも悪くはないけれど……

「その土地でできた自然素材がそこに暮らす人たちの体にいいのだと、薬草の勉強をしているうちに気づきました。国産の藍を活かし、つくる人も使った人もうれしい石けんづくりを目指しています」と、坂東未来代表取締役社長

そんな折、未来さんは徳島県吉野川市にある実家の書棚の片隅で、祖父の蔵書であった「薬草辞典」を見つけました。パラリとめくってみると、最初のページに記されていたのが「藍」。効能には、解熱、解毒作用と書かれています。肌の炎症を抑えるにはぴったりです。

「このとき、すごくハッとしました。なぜなら私の実家は、全国でも数少ない藍農家だからです。世界中からいろんな薬草を取り寄せてきたけれど、まさか身近にこんなにいい薬草があるなんて、と」

日本一の藍産地である徳島の農家では、夏の収穫時期に藍の種のお茶を飲む習慣があります。虫刺されには藍の葉をもみ込むといいということも聞いていました。しかし、藍は染料という意識が強く、石けんなどの美容用品に取り入れる発想はありませんでした。

「調べてみても、全国のどこにも藍を使った石けんはなかったのです。市場にないのなら、私がつくってみようと思いました。藍なら、うちの両親が丹精込めてたくさん育てているのですから」

こうして、運命に導かれるように藍の石けんづくりが始まったのです。

「自分が救われたのだから、この石けんで楽になれる人がいるはずだ」

   

〈藍染め石けん「いちまつ」〉
汗の気になる夏のための洗顔石鹸。洗い上がりのお肌はサッパリすべすべに。肌にやさしいラベンダー油、ビャクダン油、パチョリ油、パルマローザ油が、軽やかに香ります

 

〈藍染め石けん「ふたえ」〉
目元や口元だけがガサガサするなど、季節の変わりのお肌のトラブルに。ふんわりサラサラ、絶妙な爽やかさに洗い上がります

 

〈藍染め石けん「紙ふぶき」〉
乾燥の気になる冬に。洗い上がりのお肌はしっとりもちもち。メイク前の朝の洗顔に使うと、メイクの乗りも良くなります

〈藍色工房〉の藍の石けんは、市松模様の〈いちまつ〉や、藍と白のツートンの〈ふたえ〉、細かな藍色の欠片が舞う〈紙ふぶき〉など、スタイリッシュなルックスも人気です。これはまだ、未来さんが夫のためだけに石けんをつくっていたときからのデザイン。

未来さんは、「藍」の可能性に気づいた後、ピアノのレッスンを繰り返すように毎晩コツコツと試作に取り組みました。思いついたらとことんやらないと気がすまない性格。なにより夫の肌がどんどん快方に向かっていくのがうれしく、石けんづくりは楽しかったと言います。

そして少しずつ配合率を変えて改良を重ね、1年半以上かけてやっと納得のいく3つの特製レシピ(配合)を練り上げました。季節や肌の状態に合わせて使い分けられるよう、「すっきりと気持ちの良い使用感」「潤いを保ちながらさっぱりした洗い上がり」「しっとりとした洗い上がり」。それらを見た目で区別しやすいように、遊び心でセンス良く工夫していたのです。

こうして市販の石けん以上のクオリティのものが完成しても、未来さんはまさか事業を始めるとは思っていませんでした。差し上げた方々から肌トラブルが改善したと喜ばれ、代金をとって分けてほしいと言われるようになってもです。

そんな彼女に、また運命の転機が訪れました。夫・純一さんの会社が不況のあおりで倒産したのです。起業を決意したものの、赤ちゃんがいて家を離れられない妻に代わり、純一さんが地元商工会議所の創業塾に通って経営を学び始めました。

「自分が救われたのだから、この石けんで楽になれる人がいるはずだ」

こうして2005年11月、有限会社藍色工房を設立。お客様がいるかどうかもわからないなか、ネットショップからのスタートでした。

藍の伝統を次世代に伝える誠実なものづくり

案の定、当初は非常に苦労しました。まず、これまで世の中になかった商品のため、「藍の石けん? 顔が青く染まらない?」といった不安を抱くお客様もおり、まず使ってみていただくというハードルが高かったのです。

もちろん、肌が染まるようなことはありません。「一度試してもらえれば良さがわかってもらえる」と、未来さんはせっせと販売イベントに出店し、ときには電子ピアノでアニメソングを弾いてお子さんたちを招き寄せ、お母さんたちに石けんを試してもらいました。

もうひとつ、未来さんたちに突きつけられたのが、「藍」に携わる人たちからのお叱りでした。「貴重な藍を、水に流してしまう石けんにするとは何事だ!」と反発を受けたのです。

「両親でさえ、最初は嫌な顔をしました。それは当然なんです。収穫した藍の葉から染料の藍をつくるには藍を発酵させて“すくも”をつくる熟練の技が必要で、たいへんな手間と労力がかかります。そのすくもをつくる藍師は、阿波藍で有名な徳島でもいまや5人しかおらず、藍農家もいまや30軒ほどという危機的な状況です。でもそんな貴重な藍だからこそ、染料以外に用途を広げて新しいマーケットを創り出すことで藍業界を活性化できたら意味のある仕事ではないか。そうでなければならないと、つねに考えてきました」

未来さんのご両親と弟さんが手がける自社農園。農地を以前の4倍に拡張しました

藍色は、「ジャパン・ブルー」と呼ばれて世界に知られる日本の伝統の色。藍は布を丈夫にし防虫殺菌効果があるため、武士の鎧下を藍で染めたり、江戸時代には庶民から将軍まで藍色の衣類を愛用したといいます。そんな藍が日本から消えようとしている。ですがそれは藍農家の娘であった未来さん自身も、藍の石けんづくりを始めるまでは、ほとんど興味を持っていなかったことでした。

「日本の多くの方がそうだと思います。でも、日常的に藍の石けんを使っていただくことで、すこしでも日本の藍に興味を持ってもらえるかもしれない。藍産業の衰退を食い止めたい」

「合成着色料や合成保存料を一切使用せず、自然のままの素材を使った石けんは、肌に優しいのはもちろん環境保護にも役立つはず」

そんな思いを胸に、香川県や中小機構の助成金制度を活用して、地道に地元の企業展示会イベントやギフトショーに参加。そこでの出会いからドリームゲート主催のビジネスプランコンテストに参加し、〈最優秀賞〉を獲得します。それを機にメディア取材が急増。2010年には、NHKがドキュメンタリーを放送したことで、藍色工房の存在は一躍、全国に知られることになりました。

新たな市場開拓で、藍の産地にも貢献

起業から10年。以前の3倍以上に増えた需要に対応するため事務所兼工場を拡大して移転し、経済産業省の地方発クールジャパンプロジェクト「The Wonder 500 ™(ザ・ワンダー・ファイブハンドレッド)」にも選出され、海外からも注目が高まっています。

でも、どれほど規模が拡大しても、藍色工房の石けんは、未来さんが夫のために自宅のキッチンでつくっていたあの頃のままです。もちろん成分や配合はブラッシュアップを重ねて進化していますが、ずっと愛情を込めた手づくりで、昔ながらのコールドプロセス製法を守っています。

藍色工房の石けんはすべて手づくり。コールドプロセス製法は製造過程でほとんど熱を加えないため、植物油や植物素材のデリケートな成分を壊すことなく石けんに封じ込めることができます

模様をつくるために、藍の石けんを型入れして3日間乾燥させてから白い石けんを足していくなど手間を惜しみません。途中で割れないようにうまく乾燥させるには温度と湿度管理が重要で、未来さんが試行錯誤して得たノウハウを活かしています

「コールドプロセス製法は、安心・安全で贅沢な使用感の石けんをつくることができますが、製造に2ヶ月かかります。そのうえ藍と白を組み合わせたデザインは難易度が高く、生産量を確保しようと大手石けんメーカーにOEMをお願いしたら、『こんな面倒なことできるか!』と断られちゃいました(笑)」

あまりの人気に類似商品も出ましたが、クオリティでは藍色工房にかなうはずもありません。なにより、「藍」の原料が違います。藍色工房で素材として使う「藍」は、すべて未来さんの実家・徳島の自社農園で栽培。家族で力を合わせて種をまき、水をやり、葉を刈り取り、花を咲かせて、一年365日、まるでわが子の健康を気づかう親のような気持ちで育てた正真正銘の日本の藍なのです。

藍の使用量が増えたことで、現在、自社農園は農地を以前の4倍に拡張。両親とともに未来さんの弟が栽培に取り組んでいます。眉をひそめていた藍業界の人たちも、少しずつ理解してくれるようになりました。

いま、同社では自社農園に染め場を構えて手染めの藍染め雑貨も販売。鈴鹿墨の墨師に製造を依頼した幻の墨「藍晶(らんしょう)」や、伊勢木綿や砥部焼とのコラボ商品など、藍を用いた製品を意欲的に世に送り出しています。

明治以降に藍染め産業が衰退すると同時に姿を消した「幻の墨」といわれる藍の墨。自社藍農園の藍の葉から抽出した純粋な色素を、三重県鈴鹿市のベテラン墨職人・伊藤亀堂さんが膠と水だけで練り上げてつくりました

「いま、つくりたいのはスタンプパッドや万年筆のインクなど、藍の美しい色合いを活かした文具です。伝統の藍を現代にどう活かすかを考えるのは面白いですね。Rin crossingで全国各地の魅力ある企業さんと出会い、有意義なコラボレーションができたらうれしいです」

有限会社 藍色工房
(ユウゲンガイシャ アイイロコウボウ)

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