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創り手たちのStory

Home > 創り手たちのStory #051 べッ甲イソガイ

#051 べッ甲イソガイ2016/08/25

伝統工芸の技術を伝承しながらアクセサリーや生活雑貨の新境地を拓く〈ベッ甲イソガイ〉

原材料輸出入ストップという逆境のなか
希少なストックを生かして伝統工芸の技を受け継ぐ

梅雨明け前、少し早めの夏が来たかのような日射しのなか、そびえ立つスカイツリーを背に下町の住宅街を行くと、「鼈甲磯貝」の看板を掲げる工房がありました。長崎、大阪とともに三大産地として「江戸鼈甲」細工を手掛けるべッ甲イソガイの工房です。独特の艶と文様が美しいべッ甲細工は、古くは大名愛用の高級な装飾品から和装品、また開国後は外国人向けの洋装品や国内向けの日用品など、時代に呼応して売れ筋も変遷してきました。べッ甲イソガイでも昭和から平成へ入り、次々と新しいアイテムやデザインを生み出して人気を博しています。

江戸時代のべッ甲細工工房「伊勢元」の流れを汲むベッ甲イソガイ代表の磯貝實さん。江東区無形文化財に指定されている「ベッ甲細工」の保持者として認定されている

「昔からべッ甲細工の原材料は希少で、いずれはなくなってしまうのが分かっていました。ですから昔の職人たちは、売り上げの半分を次の材料購入費に充てたりして、できるだけ備蓄したのです」と、作業の手を止めずに語ってくださったのは、同社代表取締役の磯貝實さん。

半透明と黒褐色のまだら文様の甲羅と爪、腹甲を巧みに加工、細工し、各種の装飾用具としてつくられたものをべッ甲細工という

そもそも、べッ甲の原材料は南方の海域で生息する海亀の一種、玳瑁(タイマイ)。古くは7世紀初頭に中国から飛鳥時代の日本にもたらされたというべッ甲細工ですが、その希少性と高価な材料であるがゆえに、世界の歴史上でも幾度となく禁令が出されたことがあります。そしてワシントン条約によって23年ほど前に原材料の輸入は完全にストップ。以来、国内産のべッ甲細工は各工房でストックされた希少品を加工してつくり続けられています。

 

以前はアクセサリーのチェーンを専門とする職人もいたが、現在はもういないため、こうしたパーツも全て自社工房でつくっている

 

天然素材特有の固さ、やわらかさ、色合い、キズの深さなど、個々の材料が持ついろいろな条件を見抜いた上で、べッ甲細工独自の道具を使って仕上げる

厚みを出す場合は、べッ甲を重ねて180度に熱した鉄板で挟み、圧力をかけて圧着させる

「腹甲には柄がありませんが、背甲には独特のまだらの文様がふたつとない柄となって現れるのが魅力です。現在では、べッ甲を研磨した削りクズを粉砕して固める“再生べッ甲”を使う工房もあるようですね。幸いうちにはまだ原材料がありますから、天然のべッ甲にこだわって、丁寧につくっていきたいです」と實さん。

熱を加えることによって甲羅の柄も透明度が増し、色味が冴える

後世に残せるものづくりを
師から弟子へ、3兄弟でつなぐ

原材料が入手困難となる状況下で、日本におけるべッ甲細工の工房も職人も減少の一途をたどります。しかしべッ甲イソガイでは次男の剛さんをはじめとする3人の息子さんが實さんに弟子入りし、いまも伝統技術を受け継いでいます。

「同業者も、いずれ材料はゼロになるんだから息子には継がせられないと廃業する方が多くてね。なのにうちは本当に恵まれていますよ。昔は工程やパーツの特性ごとに専門の職人さんがいて、分業することが多かったんです。でも今は各弟子が全工程の作業をできるように教えています。いざというときにお互いに助けを求められる職人がいつも一緒にいるというのは、心強いものなんですよ」と實さんは語ります。

實さんと剛さんをはじめとする3兄弟でべッ甲細工をつくる工房。普段は長男の克実さんが亀戸店を、三男の大輔さんが浅草店を切盛りしている

原材料ストップという逆風のなか、實さんが3人もの弟子入りを受け入れることができたのは、べッ甲細工の原材料がなくなることを見据えて、先代で實さんの父、甲心さんとともに長い時間をかけて玳瑁をストックしてきたから。その希少な原材料を無駄遣いしないように工夫を凝らしながら「伝統工芸を粘り強くつくり続けて伝承していくことへの誇り」を信念に、べッ甲細工をつくり続けています。

温かい海に生息する玳瑁(タイマイ)という海亀。ワシントン条約でベッ甲の材料の輸出入が完全に禁止されるまでに、實さんとその父である、磯貝甲心さんがストックしてきた

「弟子入り当初、職人になるまで10年はかかると師匠に言われて『こりゃ脅しかな』とも思ったんですよ(笑)。でも原材料の特性を把握してどんなアイテムが向いているのか、採算はとれるのかなど、包括的に判断できるようになるにはやはり時間がかかります。やっぱり師匠の言う通りですね」と、一番弟子でもある次男の剛さんは楽しそうに語ります。

新たな感性で生み出す新ブランドで
伝統的な高級装飾品から、身近なアクセサリーへ

剛さんに続きふたりの兄弟も工房に加わったことにより、べッ甲イソガイのべッ甲細工は伝統的な装飾品だけではなく、まったく新たなアイテムやデザインを次々と生み出すようになります。まずは2012年に手掛けた、トルコ石など天然石と組み合わせた「assort」がその皮切りとなりました。若い世代のお客様も手にとりやすいように、とつくられたアクセサリーコレクションです。

3兄弟の次男、磯貝剛さんは大学在学中に一番弟子として實さんの工房へ弟子入り。工房を率いるリーダーとして日々べッ甲づくりに勤しむ

べッ甲屋独自の伝統的な道具、「ガンギ」は、べッ甲を傷つけずに削ることができる。「メタバ」という砥石よりもピカピカした道具でガンギの目を整えながら使用する

材料に限りがある現在では、コスト的にもべッ甲を贅沢に使えなくなったという。写真右は全べッ甲の名刺入れ(實さんのもの)、左は天然木とのコラボ作品(剛さんのもの)

材料が限られていることも新たなデザインを生み出す契機となりました。従来のように素材をただ贅沢に使うのではなく、異素材と組み合わせてデザインアクセントにしたり、蒔絵など異業種の職人とのコラボレートすることによって新たな作品を発表するなど、みんなでアイデアを出し合って、常にお客様が使いたいと思えるようなアイテムやデザインを模索し続けているといいます。

若い世代へ向けて2012年から年に1度ずつ発表してきた5つのコレクション

こうして、2012年から年に1コレクションずつ発表してきたブランドが5つ出揃い、2016年は「FIVE STORIES」として打ち出しました。全国の百貨店への出店や海外の展示会への出展など、剛さん自らが足を運び、認知度を高める活動も積極的に行っています。

アールヌーボーの有機的なラインを想起させる優美な輪郭に銀粉を蒔いた、べッ甲と蒔絵によるコラボレートコレクション

べッ甲の質感をシンプルなフォルムで表現したアクセサリーコレクション

現在は長男の克実さんが亀戸店を、三男の大輔さんが浅草店を切り盛りしながらことあるごとに意見交換をし、それぞれのものづくりに力を注ぐイソガイ一家。「1人だけの力ではなく、手伝ってもらう方がいいものができるんですよ。材料がない時代だからこそ、職人同士が力を合わせる方が効率もいいですね」と剛さんは言います。

読み難い「鼈甲磯貝」というブランド名を、より親しみやすいよう4年ほど前に「ベッ甲イソガイ」というロゴ表記に変更

「Rin crossingの関連イベントへの出展では、私たちのべッ甲細工を知ってもらうことはもちろんですが、異業種のつくり手の方々との縁が大きな刺激になりました。よそではこんな手法でつくっているとか、こんな戦略で運営しているなど勉強になることが多かったです。今後の展開に期待しています」と剛さんは工房外での活動にも意欲的です。原材料がないという大きな壁が立ちはだかりつつも、それをポジティヴに受け止めて新たなアイデアをカタチにする次世代の職人たち。伝統技術をしっかりとつなぎながらも、自らを“べッ甲クリエイター”と名乗る剛さんのように、さらなる領域を自らクリエイトしていくに違いありません。

代表の實さんも「この先、弟子たちが時代に合ったいいものをどう生み出していくのか本当に楽しみですね。私も職人としてできる限りがんばりますよ」そう目を細めながら語る姿から、次代をつくる職人たちへの期待の大きさが感じられました。

べッ甲イソガイ
(べッコウイソガイ)

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