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創り手たちのStory

Home > 創り手たちのStory #061 株式会社 坪川毛筆刷毛製作所

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#061 株式会社 坪川毛筆刷毛製作所:川尻筆【広島】2017/05/25

高級毛筆というルーツを生かしたオリジナルブランドを醸成〈川尻筆「古羊毛®」〉


独自の「月の浦筆」ブランドで
受け継いできた高品質な「ねりまぜ」の手技

立夏も過ぎ、そろそろ夏の気配が漂いはじめたころに訪れたのは、江戸末期から筆づくりが行われてきた広島県呉市の東部に位置する川尻町。同じ広島県内で画筆・化粧筆の産地として知られる熊野町とともに、高級毛筆づくりを主軸にした「川尻筆」の産地として古くから歴史と技をつないできた町です。今回の取材先は、そんなエリアで昭和14年から3代にわたって川尻筆の伝統を基軸にしながらも常に新たなうねりを生み出してきた坪川毛筆刷毛製作所。穏やかな瀬戸内の海岸「月の浦」を臨む工房の2階には、熟練の職人たちがそれぞれの持ち場で筆づくりに集中する姿がありました。

よく晴れた日には工房から、瀬戸内海の向こうに安芸灘の島々を結ぶ「とびしま海道」が眺望できる

一度は東京で就職するも20年ほど前にふと家業にやりがいを見い出して地元へ戻ったという同社取締役の坪川竜大氏

「筆には大きく分けて、毛筆、画筆、化粧筆とありますが、ここ川尻町で主に手掛けているのは高級毛筆です。うちでは50年ほど前から、美しい海岸の名前にちなんだ『月の浦筆』というブランドで、上質な毛筆にこだわったものづくりを行ってきました」。そう語るのは、「川尻筆」の伝統を守る取締役の坪川竜大さんです。

20年前までは毛筆の他、工業刷毛も手掛けていた

同社では主軸である毛筆の他、工業刷毛も手掛けていましたが、海外から安価な刷毛製品が流入してきたことを機に20数年前に毛筆一本に集約したといいます。筆づくりのなかでも熟練した技が求められる毛筆は、実に約70以上にわたる工程を、職人による丹念な手仕事で約1カ月かけて1本の筆として完成。多種多様な動物の毛から最適な素材を選び抜き、灰で揉んで毛の油分を抜いた後、独自の道具を巧みに使って手先の感覚で先端を揃えつつ、徐々に徐々に穂先をつくり上げてゆきます。

この道一筋50年の熟練職人をはじめ、現在は10名ほどのスタッフで工房を切り盛りする

坪川氏自身も職人として、筆の穂先を化粧巻きして焼き締める作業を手早くこなす

ここ数年の新たな取り組みで化粧筆も増えたとはいえ、従来手掛けてきた毛筆の方が多い

材料を選定し、毛先を揃え、穂先を円すい形にねりまぜ、糊固めをして化粧巻きを施し、焼き締める。経験の差こそあれ、その工程を一人ひとりの職人が一貫して全て手掛けることができるというから驚きです。毛先を揃える櫛や小刀などの道具はオリジナルでつくられているものも多いようですが、現在では道具をつくる職人も減ってきているため、砥石で研いで手入れを重ねながら希少な道具を大事に使い込んでいます。

筆の用途によってそれぞれ形状の異なる道具が並ぶ


入手困難な幻の素材『古羊毛®』による
唯一無二の高級化粧筆ブランドを展開

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地元、安田女子大学の書道学科の先生と共同開発した書写用小筆「ISHIN」。実用新案取得

毛筆のクオリティの決め手となる原料の品質に特にこだわって長年探求し続けてきた同社が、40年ほど前に中国へ渡って収集してきたのが、最高級の山羊の毛、「古羊毛®」。書道家の間でもその「突出した使用感」が評判の希少価値の高い素材です。

高級筆の素材としても活用してきた「古羊毛®」ですが、「月の浦筆」ブランドの新たな試みとして2010年に開発したのが、書写用小筆の「ISHIN」。「古羊毛®」と特殊人工毛を配合して特殊な形状の軸を採用することで、穂先を丸洗いできて、しかも再使用時にも一定の書き味でストレスなく書くことができるという画期的な小筆。従来は消耗が早く扱いも面倒だった小筆が、書道初心者でもお手入れが簡単で長持ちする商品として話題を呼びました。書写書道教育現場からのリアルな要望を取り入れて、大学の研究者との共同開発で生まれただけあって、理想的な小筆として幅広い層から支持されています。

1970年以前に採取された希少価値の高い、中国・江南地方に棲息する山羊の毛「古羊毛®」

 

穂先が円すい状になるよう、繊細な毛先を選りすぐって丹念に整える。コシや粘り、飴色の光沢があるのが特徴

そして、著名なプロダクトデザイナー、澄川伸一氏とのコラボレートにより、高級毛筆「川尻筆」ならではの穂先づくりの技をルーツに、筆の在り方を根本から問い直した上質な化粧筆「古羊毛® 雪・月・花」が誕生したのが2014年のことです。

卓越した意匠と技を結集した「古羊毛® 雪・月・花」シリーズ[プロダクトデザイン:澄川伸一氏/塗り:会津塗]

化粧筆の本質である肌ざわりのよい「穂先」に「古羊毛®」のみを贅沢に使用するとともに、実際にメイクをするときに手が触れる「軸」にも着目。筆全体の重心バランスやフォルム、そして穂先を傷つけないよう自立する設計、そして手に馴染む伝統的な会津塗で仕上げることによって、使い込むほどに艶やかで深い紅色がより味わいを増す、究極の化粧筆として世に送り出されました。

 

光学顕微鏡写真(×2000)左:現在流通の羊毛/右:同社保有の「古羊毛®」

同社が「古羊毛®」にこだわるのはその希少価値だけではありません。通常の羊毛と比較して、実質的にどれほど違いがあるのか、広島県立総合技術研究所西部工業技術センター協力のもと科学的なデータに基づいて徹底的に比較検証したのです。20数年ほど前に家業に就いた坪川さんは、それ以前に洗剤・医薬品などの大手メーカーでヒット商品を企画開発していた経験から、未知の素材や新製品の科学的評価の大切さが身に沁み着いているのだといいます。検証の結果は、一目瞭然。比較した複数のどの原毛よりも、明らかに表層が厚く、内部も密集してコシがあり、かつ毛先までしっかりキューティクルで覆われ繊細であることが判明しました。

現在では入手困難となってしまった幻の素材ですが、同社では早くから注目してほぼ独占的に保有しており、世界一のストック量を誇るといいます。

世界でも例を見ないストック量の「古羊毛®」の原毛。皮つきの状態で保管されている原毛は今となっては希少


展示会出展やインバウンド向け製品開発で
世界のステージへ積極的に発信

究極の化粧筆として打ち出された「古羊毛® 雪・月・花」シリーズは、2014年グッドデザイン賞を受賞

プロダクトデザイナーと会津塗の職人、そして高級筆一筋の同社、三者の総力を注ぎ込んで完成した化粧筆「古羊毛® 雪・月・花」は、グッドデザイン賞を受賞し、またその後もさまざまな試みを展開しました。究極の化粧筆をより際立たせるために上質な西陣織の化粧筆ポーチを開発したり、広島平和記念公園に寄贈された折り鶴を再利用した和紙によるオリジナルパッケージで売上の一部を還元したりといった社会的な取り組みなどにも力を入れています。

 

特に海外からの需要が高い「古羊毛® 雪・月・花」シリーズの品質にふさわしい高級感あふれるパッケージ

また続いて2016年には、やさしく撫でることで癒しの世界へ誘うリラックスブラシ「Feela(フィーラ)」という新商品を発表。化粧筆に新しいジャンルを切り拓きました。ここでも脳血流反応のデータ測定を実施し、客観性の高いデータと専門家の評価とともにプロモーションすることで、信頼性の高い商品を発信しています。

リラックスブラシ「Feela」は筆先が下につかないよう自立可能な形状にこだわったデザイン[プロダクトデザイン:澄川伸一氏]

「次に狙いたいのはやはり海外のステージですね。化粧筆『古羊毛® 雪・月・花』シリーズも海外からの評価が高いんですよ。EU諸国での商標をとり、中国でも申請中です。Rin crossingの商談会でバイヤーさんの目に留めていただいたりしたことも契機になりました。我々のような中小企業にはありがたい機会なんですよ。台湾の百貨店からも声がかかって、この6月に開催される物産展へも出展予定です。今後も展示会や商談会には積極的に参加していきたいですね」と、新企画の展開にとどまらず、プロモーション活動にも意欲的です。

「決して価格競争には巻き込まれない、独自の武器を持たなければ今後を生き抜いていくのは難しいでしょう。幸い私どもには『古羊毛®』という他にはない強みがあります。品質にこだわって、海外から攻めてゆくことで、自社ブランドを盤石なものにしていきたいですね」と坪川さん品質にこだわり抜いた独自性の高い高級筆を、世界のフィールドへ発信することで、瀬戸内の小さな町で脈々と受け継がれてきた「川尻筆」の手技が、次代につながってゆくに違いありません。

株式会社 坪川毛筆刷毛製作所
(カブシキガイシャ ツボカワモウヒツハケセイサクジョ)

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