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Home > 工芸デザインのポストモダンを超え“薄肉美麗”な「山形鋳物」への原点回帰|有限会社 鋳心ノ工房(山形)【山形鋳物】

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工芸デザインのポストモダンを超え
“薄肉美麗”な「山形鋳物」への原点回帰 有限会社 鋳心ノ工房(山形)

2018/11/28


ヨーロッパでも注目を集めるモダンなフォルムと美しい鋳肌
日用品としての山形鋳物の魅力

「山形鋳物の最大の魅力は“薄肉美麗”と称されるように、薄い生地による美しいフォルムと砂目の美しい鋳肌です。鉄鋳物は重量があるので日本では時代とともに日用品として受け入れられにくくなってきましたが、逆にヨーロッパではその心地よい重さに価値を見出してくれて注目を集めてきたんですよ」。そう鋳物の魅力を語るのは、鋳心ノ工房の代表取締役、増田尚紀さんです。

950年の歴史を持つ山形鋳物ですが、増田さんが鋳物の仕事を始めた1970年代は、工業化の波に押されて伝統工芸の産地構造が大きく変化する時代。鋳物の町・銅町でもかつての勢いを失って廃業に追い込まれる鋳物メーカーが少なくなかったといいます。

もともと東京の美大を出て、日本のクラフトデザインの礎を築いた芳武茂介氏のアシスタントを務めていた経験を持つ増田さんは、早期から伝統的な山形鋳物にグッドクオリティとモダンデザインを追求してきました。そして鋳物業界に逆風の吹く中、30年ほど前からフランクフルトのアンビエンテに出展。ヨーロッパの紅茶文化に受け入れられ、カラフルな鋳物のティポットの開発に至ったのです。

伝統的な茶の湯釜の技法を、今日のライフスタイルに合わせてモダンにデザインしたティポット。内側は錆びにくいホーロー加工が施されている

「アンビエンテには毎年続けて出展していますが、時代とともに商流は変わってきました。当初は日本の商社を通じて取引をしていましたが、徐々にヨーロッパの人からダイレクトにアプローチが来るようになってきたんですよ。そこで具体的なニーズを聞く機会に恵まれて、カラフルなティポットが生まれたんです。お茶の色が変化しないよう鉄瓶の内側にホーローを施して、ヨーロッパでも使いやすいように工夫しました。花を生けたり、オリーブオイルを入れたり、ホットチョコレートを入れたりと、ヨーロッパの人の発想は自由。その多様性が鋳物の可能性を広げてくれましたね」

鉄瓶をより日常生活に取り入れられるよう使いやすさを追求したティケトル。ハンドル、つまみに木を使い、鉄鋳物の固いイメージをソフトに変えるデザイン

「グッドデザイン、グッドクオリティ、そしてロングセラーになることが大事」とものづくりへのこだわりを語る増田尚紀さん

山形鋳物の特長である“薄肉美麗”の技法でつくられた伝統的な鉄瓶。生地が薄く、鋳肌が美しい

 

2010年にオープンしたショールームには、工房設立当初からの作品が並ぶ


日本独特の精緻な鋳造技術で生み出す
二つとないものづくり

ショールームからほど近い工房へ場所を移し、鋳物づくりの現場を案内してもらいました。ここでは鉄はもちろん、アルミやブロンズなどの素材を中心に、プロダクトのデザイン、金型づくり、製造、流通を一貫して手掛けています。

ショールームや工房には、鉄瓶をはじめ多種多様な鋳物の型枠が並ぶ

 
 

工房2階では、鋳物の原型となるアルミ製の型枠の製造や、小型のオブジェなどを鋳造。鉄の融解温度が1400〜1500℃であるのに対し、アルミは700℃程度で融解する

■鋳造の様子はこちら


「私がこの仕事に就いた70年代は、山形鋳物は分業が可能だったんですよ。例えば鉄瓶の場合、甑(溶解炉)の設備がなくても鋳型をつくり、型を鋳造する工房へ運び、お湯(溶解した鉄)をもらい鋳造することができました。大きな装置がなくても得意な技術を生かすことができる極めて合理的なシステムです。この銅町にも明治・大正生まれの腕の良い職人さんがまだたくさんいましたね」と当時を振り返る増田さん。もともとクラフトデザインの第一線で、先人のデザイナーたちが伝統工芸の産地と手を組んでモダンデザインを世に送り出すのを間近で見ていた増田さんは、産地に入り込んで、一貫してものづくりをする重要性を実感していたといいます。

 

鋳造した製品の注ぎ口や鋳ばりを細部まで丁寧に磨いて仕上げる

「プロダクトのクオリティを上げるには、金型から鋳造まですべて自分で手掛けなければレベルを保つことは難しいですね。今は中国やベトナムでも日本の鋳物をコピーした安価な商品がたくさんつくられる時代になりました。違いが分かりにくいながらも、日本の鋳物の最大の特徴は、ディテールまで造りが精緻なこと。その繊細な仕上がりは、一貫して自分でつくることでしか実現できないと考えています」とグッドクオリティにかける想いを語ります。


顧客とダイレクトにつながる時代に
山形鋳物への理解者を増やす新たな試み

「伝統工芸の産地はどこも厳しい時代になってきましたが、今やるべきことは“山形鋳物の魅力を理解してくれる人を増やすこと”です。何か一つでも興味を持って手にしてもらえたらと、小さな砂型鋳物の世界を表現したアクセサリーを手掛けています。山形鋳物の特徴である砂肌の美しさをか感じてもらえるとうれしいですね。大切なのは造形的にも美しくディテールを丁寧につくること。日本の伝統工芸の強みを決して忘れないことです」

小さな鋳物のアクセサリー「“small beautiful world” created with iron casting.」シリーズ

もう一つ、鋳心ノ工房で力を入れているのは、増田さんの師匠である芳武茂介氏が1960年代に手掛けたデザインを復刻するなど、工芸デザインの文化を受け継ぎ、次代へ繋ぐ取り組み。芳武茂介デザインの金型を保存し、プロダクトとして世に提示することで、伝統工芸とデザインの融合によって時代に合った日用品が生み出されることを伝えています。

日本の工芸デザインのパイオニア、芳武茂介氏は、1960年代に山正鋳造と手を組んで、それまでの山形鋳物にはなかった全く新しいモダンデザインのプロダクトを生み出した

鉄瓶の仕上げの伝統技法では、800度で素焼きをして酸化被膜で覆うことでさびを防ぐ。そして、その上から漆の焼き付け仕上げを施す

最後に同社の今後の展開についてお話を伺いました。
「鋳物の魅力は砂肌の美しさなど見た目やデザインももちろんありますが、最大の魅力は“鉄瓶で沸かしたお湯が体に良いこと”。昔は夏場でも24時間火にかけて使っていたものです。鉄瓶でお湯を沸かすことで水道水のカルキをほとんど消すことができるうえ、まろやかで臭みのないおいしいお湯になります。しかも鉄分が抽出されるので体に必要な鉄分を自然に摂取できるメリットがあるんですよ。鉄瓶はもっと再評価されるべきだと考えます」。ヨーロッパで受け入れられたティポットでは内側にホーローを引いていましたが、今年9月に訪れたパリとミュンヘンでは、鋳物の基本に立ち戻って本来の良さを伝える伝統技法による漆の焼き付け仕上げの鉄瓶を携えて得意先を訪問。増田さんのプレゼンテーションはヨーロッパの人々の関心を引き、本来の鉄瓶の可能性を広げる種を蒔きました。

「今という時代は、問屋を通さずにダイレクトにお店や一般顧客とつながる環境になってきました。昔はセールスは商社や問屋に任せて我々はつくることに専念できましたが、今はつくる人が“つながり=流通”もつくらなければなりません。ものづくりの力だけではない能力が必要ですね。これからも国内外の展示会へ積極的に出展してダイレクトにつながっていくことが重要だと考えます。展示会は、市場で今何が求められているのか、マーケティングができる大切な機会ですから」と熱く語る増田さん。鋳心ノ工房の今後の展開にますます期待が高まります。

 

有限会社 鋳心ノ工房
(ユウゲンガイシャ チュウシンコウボウ)

鋳心ノ工房の商品はこちらで購入できます


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